2005年12月27日

羽越線事故への見解

 全員の救出が終了し、もう死者は増えないだろうと安堵したのも束の間、新たな遺体が車両の下から発見されてしまった。報道によると行方不明の親子連れもいるそうで、まだまだ予断は許されないようである。亡くなられた方々には、心からお悔やみ申し上げます。

 今回のJR羽越線の脱線事故は、「防ぎきれなかった事故」という印象が否めない。120%人災だった福知山線脱線事故とは明らかに異質で、JR東日本が気の毒にすら感じる。しかし事故を起こして人を死なせてしまったのは事実なので、JRには最大限の対応をしてほしいものだ。

 今のところ、事故の原因は想定外の突風が吹いたせいになっている。その風が吹いたメカニズムについてはいろいろと議論されているが、私は盛り土が局地的に風の威力を強めたという説に納得できる部分が多い。鉄橋の下から吹き上げる風も捨てがたいが、それにしては脱線の始まった地点が鉄橋から離れすぎているからである。

 しかし、盛り土が原因となるとその対策は実に難しい。全国に、盛り土の上を走る区間は星の数ほどある。特にローカル線では、橋梁へのアプローチには盛り土を使うのが当たり前であり、コンクリートの高架橋を使うほうが珍しいのだ。鉄橋の構造にしてもトラス鉄橋は標準的なもので、全国津々浦々にある。あの手の鉄橋は橋自体が風の影響を受けないようにするためにスカスカの構造になっており、下手に何かで覆ったりすると橋ごと吹き飛ばされる可能性があるというから頭が痛い。

 事故の再発防止のため、盛り土区間や鉄橋の改良を行うのはあまりに非現実的だと損う。特に風が強い今回の区間についてはそれも必要かと損うが、全国的にそれを行うとなると費用がかかりすぎる。整備新幹線に使う金を在来線の安全補強のために出してくれるなら話は別だが、とてもじゃないがJRにそれだけの費用を捻出する力はないだろう。

 結局のところ、風速計の設置を増やしてキメ細かい計測を行うしか打開策はないんじゃないだろうか。羽越本線は全長271.7キロに風速計が9カ所設置されているそうだが、これは少ないと言われても仕方ない気がする。特に風の影響を受けやすい橋梁付近や盛り土区間には設置を増やし、区間ごとに柔軟な運行規制を敷けるようにしなければならないだろう。

 だがそうなると、今以上に風で列車が止まることが増えることを我々も覚悟しなければならない。今回の事故を受けて風への規制が強まり、風速20メートルで徐行、風速25メートルで運行停止となれば、羽越本線などは冬季はほぼ毎日のようにダイヤが乱れる事態に陥るかもしれない。しかし、鉄道に今以上の安全を求めるならばそれは甘受すべきで、決して遅延してもJRに対して文句を言ってはいけない。早くも風に対する認識の甘さを追及する論調があちこちで目立つが、そう主張する人々はきっとそれだけの覚悟を持ち合わせていることと信じている

 ところで、福知山線の被害者で結成されている「4・25ネットワーク」が、今回の羽越線脱線事故を受けて次のようなコメントを発表したようである。以下、スポニチの紙面記事(ネット上のソースなし)から引用する。

 JR羽越線特急脱線事故を受けて、尼崎脱線事故の遺族らでつくる「4・25ネットワーク」(世話人・藤崎光子さんら)は26日「尼崎事故から8カ月目の同じ日に再びこのような事故が起き、深い悲しみと憤りを覚える」とのコメントを発表した。「今回の事故は、尼崎事故の教訓が生かされなかったとしか考えられない」と指摘。JR東日本に対し、事故の早急な全容解明と、遺族・負傷者への誠意ある対応、徹底した情報開示を求めている。


引用ここまで。

 この人たちはJRに対する根強い不信感を抱いているから、JRに厳しい言葉を投げかけるのも無理はない。福知山線事故と同じように、建物にぶち当たってひしゃげた車両を見るにつけても、あの忌まわしい事故の記憶が呼び起こされてたいへん不快な思いをしていることとお察し申し上げる。

 しかし、「今回の事故は、尼崎事故の教訓が生かされなかったとしか考えられない」というコメントを言うのはいささか時期尚早ではないだろうか。先にも書いたが、今回の事故と、120%人災の尼崎事故はその性質がだいぶ異なる。尼崎事故のようにカーブで速度オーバーして起こったものでもなければ、新型ATSがあれば防げたものでもない。ダイヤが過密なわけでもなければ、運転士が遅れを取り戻そうと焦っていたわけでもない(そもそも既に68分も遅れているのだから、運転士に焦りなどほとんどないはず。自分のミスで遅れているわけでもないのだし)。尼崎事故の教訓をフル動員したところで、今回の事故を防ぐ材料にはならなかったはずである。

 もっとも、「根本の安全意識がなってないから事故を起こすのだ」というニュアンスならば通じるものもある。でもその場合でも、この先事故存因の究明が進んで、何らかの人的原因が明らかになるまでこのコメントはとっておいたほうがよかったかもしれない。そのとき初めて言ったほうが、このコメントの重みももっと増したはずである。

 事故で肉親を失われた方にそこまで求めるのが酷なのは承知している。しかし、本当の意味で安全への警鐘を鳴らせるのは被害を受けた人たち以外にはいないのだから、その発言には常に慎重を期して頂きたいと思う。憤りに任せた感情論は、人の心を動かさないので…。

車両付近で新たな遺体 山形JR脱線事故、5人目の犠牲者(産経)
posted by atsu at 21:59| 東京 晴れ| Comment(4) | TrackBack(9) | ニュース−社会 交通 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
小馬太郎兵衛と申します。TBありがとうございました。
まさかこの事故で「4・25ネットワーク」が出てくるとは思いもしなかったので、興味深く記事を拝読させていただきました。
私もatsu様のご意見に同感で、このような天災に対してどこまで手を打てばよいのか、正直いたちごっこのような気がします。運行基準が厳しくなれば、風の影響をモロに受けやすい、首都圏を走る京葉線、武蔵野線、常磐線などは、風が吹けばそれこそ壊滅的な打撃を被るわけで、それを果たして利用客が甘受できるのかということを、マスコミや、JRを叩いておきたい一部ブロガー達は理解しての表現なのかと疑問に思ってしまいます。
「4・25ネットワーク」に関しては…、今回ばかりはしゃしゃりでてくる場面が違うと考えます。人災ならいざ知らず、今回は天災であるのは自明の理。そこまで叩く団体に墜ちて欲しくないのですが…。
Posted by 小馬太郎兵衛 at 2005年12月28日 10:37
>小馬太郎兵衛さま

いらっしゃいませ。コメント頂きありがとうございます。
小馬太郎兵衛さんのブログへは、「4・25ネットワーク」つながりでTBさせて頂きました。

私も福知山線事故の被害者の皆さんには心から同情申し上げているのですが、小馬太郎兵衛さんのブログでもご指摘なさっていたように、単なるクレーマー集団になってしまってはいけないと思いますね。
同じ鉄道事故ということでコメントを出すのもいいと思いますが、もう少し配慮が欲しいです。

このニュース、全国紙ではスポニチしか扱っていませんでした。
もしかしたら、あまり的を射ていないコメントなので他紙は報道を控えたのかもしれませんね。
Posted by atsu at 2005年12月28日 23:54
Posted by at 2006年01月21日 11:00
こんにちは。

私も管理人様の通りだと思っております。

マスコミの報道を見ていてもJRを悪者として報道されたいのか、そういう偏ったコメントが多く報じられていたように思います。

確かに被害者のご遺族の無念さは分かりますが、この事故の原因とされる竜巻のような突風は誰にも予想出来なかったはずです。
Posted by 庄内人 at 2009年12月30日 14:55
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