国立マンション訴訟、住民の景観利益認める…敗訴確定(読売)
東京都国立市の高層マンション(14階建て、高さ約44メートル)を巡り、周辺住民49人などが、建築主の明和地所(渋谷区)などを相手に、「並木道の景観が破壊された」として建物の一部撤去を求めた訴訟の上告審判決が30日、最高裁第1小法廷であった。
甲斐中辰夫裁判長は、「良好な風景として歴史的・文化的環境を形成している都市景観は客観的な価値があり、住民がその景観を日常的に享受する利益(景観利益)は法的保護に値する」との初判断を示した。
今回のケースについても、「街路樹と街並みの調和がとれている」と述べ、原告に景観利益があることを認めたが、問題のマンション建設が違法な利益侵害とまでは言えないとして、請求棄却の2審・東京高裁判決を支持して上告を棄却、住民側敗訴が確定した。
最高裁が景観利益を認めたことで、各地で景観侵害を訴える住民が、司法に救済を求める道が開かれた。
判決は、景観利益が違法に侵害されたと言えるのは、<1>刑罰法規や行政法規に違反している<2>公序良俗違反に当たる――など、社会的に許されない侵害行為があった場合に限るという基準も示した。その上で、問題のマンションについては、「建設当時の行政法規などに違反しておらず、容積と高さを除けば景観の調和を乱すような点は認められないから、社会的に許されないとまでは言えない」とし、違法性を否定した。
敗訴にもかかわらず原告が喜んでいるあたり、何だか福岡地裁と大阪高裁における靖国訴訟みたいで少々胡散臭く感じるところがあるが、まあ妥当な判決ではないかと思う。景観を大事にしようという主張が認められたのは、原告にとって確かに収穫だったろう。
私は正直、いろんな建築様式の建物がごった煮になっている日本の都市には守るべき景観なんてものはないと思っているので、元々この訴訟には疑義を持っていた。実際に国立のマンションを見に行ったこともあるが、「え? たかがこんなマンションであんなにもめてるの?」と思ったものである。確かに、高層の建物がない大学通りにおいては目立つものの、あのマンションが周辺の景観を著しく破壊しているとまでは思えなかった。でも、今になってみれば、景観を守ろうとした原告たちの気持ちも多少は理解できる。あの頃の私は「20メートルより上を撤去せよ」などというトンデモ判決のせいで、冷静さを失っていたのかもしれない。
国立の市民が、景観を大事にしていることはよく分かった。しかし、それだけに解せないことがひとつだけある。
上の写真は、現在駅舎の保存問題でもめているJR国立駅であるが、問題はその後ろにそびえ立つマンション。このマンション、私としてはすげー景観を破壊していると思うんだけど。せっかくの三角屋根が、このアングルから撮るとすっかり背景とかぶさってしまうのよ。青い空と三角屋根が重なれば、もっと良い写真になるのに!
ちょっと調べてみたが、このマンションに関しては「景観! 景観!」と騒いでいる市民団体もほとんどノータッチらしい。例の大学通りのマンションよりも、よっぽど目障りなんだけど、見過ごされているのは実に不思議だ。向こうより、こっちのほうを先に訴えるべきだったと思う。
興味深く拝読させていただきました。
TB貼らせていただきました。
どこのマンション紛争でもそうなのですが、運動を担えるのは、マンションの周辺住民です。通常、マンション建設の説明がされるのは「2H」と呼ばれる、敷地から高さの2倍の範囲内の関係者だけですし、行政の条例でも、その範囲に限定されることが多いです。
明和マンションについては、もともと周辺が低層住宅地で、すぐ北側が学校で、中層建築物の反対運動も起きた地域なので、周辺住民と学校(桐朋学園)が連携した反対運動が盛り上がり、持続しました。
あそこまでできるケースは稀です。業者も必死なので、切り崩し工作は凄まじいです。勤務先に電話をかけてきたりして、運動しづらいようにしてきます。たいていは泣き寝入りするか、わずかな金銭補償で妥協せざるを得ない、というのが実態です。強引な業者であれば、反対運動があっても、ほとんど妥協案を出さずにに強行します。明和マンションも当初、強行路線で行こうとして、かえって住民の怒りに火を着けてしまいました。
国立のマンション問題で駅北口の2つの高層マンションが引き合いに出されることが多いのですが、あそこは駅前商業地で、線路もあるので、上記2H地域に住む住民が少ないのです。反対運動が生まれたものの、いかんせん中核となる住民が少なく、建設を強行されてしまいました。市内の他地域のマンション紛争に関わる市民も連携していましたが、一番利害の絡む周辺住民の頭越しに運動はできません。
写真右端の灰色マンションは、明和より前の90年代後半にできたものです。当時は行政も「建設やむなし」というスタンスで、かなりアヤしい業者だったので、住民運動関係者を脅迫したり、行政(国分寺市)に細切れの土地を高価格で賃貸したりして、一切妥協することなく建設を強行しました。マンションも超高値(最上階は4億円!)で売りに出すも、1年近くの間、ほとんど入居者がなく、ついに業者は倒産、値下げしてようやく埋まりました。
写真左のマンションは明和直後の2002年頃建設されたものです。ここの業者も新興業者で、最初の説明会ではヤクザのような担当者が出てきて、住民の怒りを買いました。ちょうど明和マンションの問題が大きくなり、二の舞を踏むことを恐れたのか、業者も住民対策の担当者を代えました。明和の運動関係者も連携していましたが、一番直近の住民と金銭和解したため、それ以上、運動継続することができず、建設されました。一応、住民運動と行政指導で、14階の計画が13階に1階だけ下げられました。
↓明和マンション反対運動が北口マンションに言及したチラシ
http://www.kangaerukai.com/houdou/tsuushin15.htm
こういう事情なんです。結局、一番の利害関係者(直近の住民や地権者)がどこまでがんばれるか、ということです。マンション問題に限りませんが。
詳細な情報の書き込みありがとうございます。
やはり、地元の方は新聞にも書かれていない事情をご存知ですね。駅北口のマンションに関して、そういう動きがあったことは初めて知りました。
しかし、何が守るべき景観だと判断するのは、やはり難しいようですね。
やはり今回の最大の問題は、国立市の対応が後手に回ったせいだと思います。
マンション計画が立ち上がってから条例を作るのではなく、もっと早くから高さなどを規制する条例を作っておくべきでした。今回は国立市が後出しジャンケンをしたので、業者側だって納得がいかなかったのではないでしょうか。
最近の報道にありましたが、国会議事堂や神宮外苑聖徳記念絵画館の背後に被る高層建築物は、景観保護のため今後許可が下りなくなるそうです。
(http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/free/NEWS/20060329/128380/)
池袋では、大通り沿いの建物の外壁の色に規制が加わります。(http://www.yomiuri.co.jp/homeguide/news/20060413hg02.htm?from=os2)
いずれも、景観を破壊する建築が計画される前に先手を打っているわけですね。景観を保護していくためには、こういう取り組みが重要になっていくでしょう。
はじめて連絡します。
現在まちづくりの教科書を作成中のkrkです。
景観まちづくりの事例として国立市のマンション訴訟問題について取り上げたいと思っています。
専門書ですが、わかりやすいものにするため、ブログの写真を引用させていただきたいのですが、ご検討お願いできますでしょうか。
連絡いただけると幸いです。
お手数おかけして申し訳ありません。
どうぞ、こんな写真でよければ自由に使っていただいて構いません。
出典なども明記していただかなくて結構です。