番組改変問題 取材拒否は本質ぼかし
政党や政治家は常に国民の目にさらされなければならない。NHKの番組改変報道に関して自民党役員が特定の新聞の取材を拒否するのは、問題の本質をぼかして国民の知る権利を侵害する。
NHKの番組改変報道に関する朝日新聞の取材記録とみられる資料が月刊誌に掲載された問題で、自民党は役員に対する同新聞の取材を公式記者会見を除き拒否するという。
記録は、圧力をかけたとされる安倍晋三・自民党幹事長代理と中川昭一・経産相、圧力を受けたとされる松尾武・NHK放送総局長(当時)のインタビュー録音反訳らしい。
文面は安倍、中川両氏とも番組内容に注文をつけたことを認めたように読める。朝日報道の「圧力」が必ずしも誤りとはいえない内容だ。事実経過に松尾発言を重ねると、NHK側が安倍氏らの意向に合わせ改変したことも否定できまい。
問題の本質は政治と放送の関係である。真摯(しんし)に反省すべきなのに、取材記録の流出にかこつけた取材拒否は公党としての責務に反する。
政党も政治家も常に国民の監視、チェックを受けるのが民主主義の大原則だが、国民は報道なしには監視できない。取材拒否は、メディア差別というだけでなく、そのメディアを通じて情報を知ろうとする人々の知る権利を侵害する。
報道一般への威嚇ともいえ、ほかのメディアも看過すべきではない。
一九八四年、当時の愛媛県知事は日刊新愛媛新聞の取材を一切拒否した。国政レベルでも自民党は折に触れ報道にクレームをつけてきたが、これだけ極端な対応は異例だ。
圧力を否定しきれなくなって苦し紛れに的外れの反撃に出た、と批判されても仕方ないのではないか。
むろん資料が朝日新聞内部から漏れたとすれば重大なジャーナリズム倫理違反である。不当な攻撃から自分を守るためであっても、他者に情報を流してメディアを使い分け相手を牽制(けんせい)するような行為は、読者の信頼を裏切る。
将来、情報提供者になるかもしれない人も報道機関を信用できなくなり、結果的に知る権利を損なう。朝日新聞は徹底的に事実を調査して、公表すべきだ。
記録からうかがわれる記者のやや強引な取材、取材相手の同意を得ていない録音なども疑問だ。
しかし、それらは報道倫理の問題であり、それに乗じて放送への政治的圧力をうやむやにしたり、政治家が被害者と称して取材拒否するのは許されない。ここで最も重大なのは録音された発言内容である。
これまで朝日の検証記事については深く切り込んでこなかった同紙だが、今さらになってこんな主張を垂れ流すとはなかなかすごい。この問題に対しては全ての全国紙が朝日を批判していると言うのに、中日は空気が読めないようだ。別に異論を投じるのは悪いことではないが、ほとんど死に体状態の朝日にすり寄って何か得なことでもあるのかい?
確かに朝日の取材を自粛するという自民党の対応は多少大人気ないとも言えるけど、悪意を持って政治家を陥れようと画策する新聞社から身を守ろうとするのは当然だろう。それに、朝日が取材規制を解いてほしいと思うなら、まずは安倍晋三らが求める公開討論に応じるべきだ。朝日の当事者が殻にこもって出てこないのに、安倍晋三側だけ取材を受け続けなければならないのはアンフェアである。それに、朝日が報じなくとも国民の知る権利は侵害されない。むしろ、朝日が報じると国民の真実を知る権利が侵害されるからな。
ちなみに東京新聞は社説だけでなく、特報面でも安倍・中川両氏を批判している。完全に矛先を間違っているね。
番組改変問題 取材拒否は本質ぼかし(東京新聞社説)
自民の朝日取材拒否考 『問題すり替え露骨操作』(東京新聞特報面)
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